2018年7月6日金曜日

幼鳥 - コチドリ



このたびは、YILハイパーブックレット-ヴィジュアルアーカイブ-「幼鳥 - コチドリ」をお買い上げいただきまして、誠にありがとうございます。

ここでは、ブックレットでは説明しきれなかったことや、訂正、追加情報などを提供させていただきます。どうぞご利用くださいませ。



【親との駆け引き】

抱卵中のコチドリを見つけた経緯は、「はじめに」に書いた通りですが、撮影はかなり困難でした。最初は親の警戒が強く、少しでも近づくと(と言っても30m以上は離れていますが)、独特の警戒音を発し、これではストレスを与えてしまうので、警戒音を発しない距離までの後退を余儀なくされました。
親の警戒音

最初はその状態で撮影を行いましたが、タンポポの綿帽子ほどしかない幼鳥は、識別できないほど小さくしか写りません。
何度目かに訪れた時、こんな体験をしました。畑の中なので、私たちは入れませんが、農家の方々は普通に作業のために畑に入っています。面白いことに、農家の方々に対して、コチドリは警戒音を発しないのです。
私たちに警戒音を発しているのは、私たちが見知らぬ人間だからなのでしょう。農家の方々は見慣れた安全な人間で、警戒する必要がないと判断しているのだと分りました。
わが家のブンチョウでさえ人の顔の識別ができますから、野生のコチドリだったらより目が良いはずですし、人や動物の識別は生死を分ける重要な能力なはずなので、長けていてもおかしくありません。そう思って、根気よく、行く度に長時間、できるだけ刺激を与えない距離で対峙し、できるだけゆっくり動き、姿を暴露しました。とにかく、私たちは安全だと認識してもらおうと思いました。
そうしているうちに、思ったよりも早く、どんどん警戒を解いてくれました。最初は雛が少しでも私たちの方に近寄ると警戒音を発していましたが、1週間後には雛がかなりの至近距離(望遠レンズのリミッターをはずさないとピントが合わなくなった距離なので、6m以下です)まで近づいて来ても大丈夫なようになりました。
自然界では、彼らは常に天敵と闘っています。それなのに、自分たちが新たな脅威やストレスになってしまうのが最大の懸念だったので、警戒を少し緩めてくれたことは、大変嬉しい出来事でした。
しかし、何日も炎天下でじっと待っていたため、顔も手も足も日焼けがひどく、いい歳のオッサンが真っ黒に焼けて皮が剥けてしまいました。

【撮影】

それでも、できるだけ脅かさないように遠くから望遠レンズで狙いましたが、晴天の日中は大気の揺らぎに随分と悩まされました。
炎天下で、地面とほぼ平行な位置からしか撮影できなかったため、ファインダーで覗いていても像がゆらゆらと揺れるのが分かるほど大気が揺らいでいました。これでは満足な写真が撮れません。日が傾くと比較的安定しますが、今度は暗くなるため、撮影は困難になります。撮影条件としては、距離、大気の揺らぎ、感度との戦いでした。日が傾き、大地の温度が下がるが、まだ多少明るさが残っている16時から17時くらいの時間帯を狙って撮影しました。午前中の方が圧倒的に条件が良いことは分かっていますが、夫婦して野鳥カメラマンとしては致命的な「早起きが苦手」という性格なので、午前中の撮影は不可能でした。本ブックレットでは、そんな中でも使えそうな写真をピックアップして時系列的に並べてみました。


【動画】

またとない機会なので、動画も撮らせていただきました。静止画用のカメラと、動画用のカメラを2台持って行くのは、老体にはかなりしんどいことですが、何故か記録しておかなければいけない、という使命感が沸き起こり、何度か撮影を行いました。何とか、幼鳥と親鳥の可愛らしい仕草を動画に収めることができました。


親鳥の下にもぐる雛


雛自ら採餌。親の下にもぐる。

【撮影地】

撮影地は神奈川県立境川遊水地公園です。
境川の氾濫を緩和するために作られた遊水地で、水辺に棲む野鳥が多く見られます。
綺麗に整備された公園で、トイレもあり、野鳥観察には適しています。
園内で70種以上の野鳥を撮影できました。

【撮影機材】

撮影は下記の機材を使用して二人で行いました。

山内 昭
  • ボディ:Nikon D500
  • レンズ:Nikon AF-S VR Nikkor ED 300mm F2.8G(IF) + TC-20E III
  • ボディ(動画用):Nikon 1 V1, V2
  • レンズ(動画用):1 NIKKOR VR 70-300mm f/4.5-5.6
山内 多佳子
  • ボディ:Nikon D5600
  • レンズ:Nikon AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR
機動性を重視して、双方とも手持ち撮影です。
近年のカメラの性能進化の恩恵ですが、35㎜版換算で900㎜相当や750㎜相当の超望遠撮影システムを手持ちで使えるようになったことが驚きです。フィルム時代と違って感度が可変なので、最適な絞り値と高速シャッターを使えるようになったので、歩留まりが随分改善されました。
何より、フィルム代がかからないので、躊躇なく連写できることが利点です。1日撮影すると数千枚、月に数万枚の撮影になります。デジタル時代でなかったら、破産していたことでしょう。
これぞ、と思える写真は、千枚に1枚あれば良い、くらいの考えで撮影しています。撮り過ぎて後悔することはありませんが、撮らないと後悔します。

【あとがき】

実は、撮影に行く度に、雛が減ってやいないか、いなくなってしまっているのではないか、と、心配で仕方ありませんでした。カラスも多く、オオタカやハヤブサもよく上空を飛んでいます。ヘビもよく見かけます。最悪のシナリオを夢に見てうなされたこともあります。
しかし、そんな心配をよそに、3匹はすくすくと育ってくれました。親鳥と幸運に感謝します。
これからは、コチドリを見るたびに、「あの兄弟かもしれない」と思う幸せも与えてくれました。子供たちにも感謝します。

子供たちが旅立って1週間ほど経った遊水地で、どこからともなく「ピユ」という声が聞こえました。家内が「ピユ」と鳴き声をまねると、直後にまた「ピユ」と返事がきました。それを4,5回繰り返し、本当に会話をしているかのようでした。
こちらが彼らをこれほど思っているのに対し、彼らは何とも思っていないことは重々承知していますが、偶然であっても、とてもうれしい出来事でした。



【その後】

ブックレット制作後も、週に1,2回のペースで繁殖地の公園に出かけています。その都度、彼ら三兄弟と思しきコチドリに出会えます。この公園のコチドリの数は多くはなく、かつ幼鳥にはほとんど出会わないので、彼らである確率はかなり高いと思います。
幼鳥は全体的に色が薄く、頭部の左右の目を結ぶ太いバンド模様(わが家では、これを「カチューシャ」と呼んでいます)もまだありません。
以下に、目撃した彼らと思われる画像を掲載します。

2018年7月13日

2羽で飛翔



幼鳥


幼鳥


親子と思われる:左が成鳥、右が幼鳥

これは成体なので、おそらく親鳥。カチュウシャ(頭頂部のバンド模様)がはっきり見えます。飛べるようになってからも、親はしばらく一緒に行動するようです。


こちらは幼鳥。


幼鳥。三兄弟のいずれかか。

2018年7月14日

幼鳥2羽

2018年7月20日

幼鳥


幼鳥



大きさが随分異なりますが、すべて幼鳥であり、あの三兄弟の可能性が高い。



幼鳥


こっちに向かって飛んできてくれました。


まだカチューシャがありません。


着陸。


こっちが気になっているようです。私たちのことを覚えてくれているのだろうか。


孵化から飛べるようになるまでの約1ヵ月間、ほぼ週に3日彼らに会っていたので、こんな感情移入をしてはいけないと思いつつ、私たちは自分の子供のように思っていました。彼らもまた、私たちのことをすごく良く見て認識してくれているようでした。最初は警戒心から見ていたのかもしれませんが、後半はそうではなかったと信じています。
営巣地から旅立った後も、公園内では何度もコチドリの幼鳥と遭遇しています。その都度、独特の「ピユ」という声で気づかされ、望遠レンズで覗くとこちらを見ているような気がします。上空を通り過ぎるときも「ピユ」と鳴き、飛翔中の写真を撮っても目が合います。
そんなことはない、と思いつつ、親ばか的考えで、「私たちのことを第二の親と思ってくれているのかもしれない」などと妄想しています。少なくとも、そんなことを考える幸せを与えてくれたのは事実です。この地に生まれて、無事に育ってくれた三羽に感謝します。親心として、彼らの幸せを願うばかりです。